有終之美

Posted on 09/16/2011

夜中零時過ぎ。一匹のツクツクボウシが鳴いている。

九月に入ってから夜になると、自分の部屋の大きな二つの窓は、冷蔵庫のドアを開けたみたいにヒヤッとした心地いい風を運んでくる。そんでもって、機械的な冷蔵庫のモーター音よりずっと美しい鈴虫やコオロギのさえずりが部屋を包む。

そんな秋の訪れから半月近く経っているし、もう夏が南の空彼方に僅かな姿しか覗かせなくなってきた。

なのに今、こんな夜中に、無数の鈴虫に混じって、たった一匹のツクツクボウシが鳴いている。

なんだかだいぶ、聴き慣れない。
おい、蝉よ、みんなしっとりとしたジャズ演ってんだ。何一人ロックでシャウトしてんだ。

いったいどうした、おまえ。もうみんな逝っちゃったぞ。そんな鳴いてもメス、もういねーぞ。よう、初秋の宵は、寒くないかい。

おまえは鈴虫に生まれたかったんかな。ただ他の奴より長く生きちゃったんかな。大人になるのが遅かったんかな。みんながまだいた頃、一回ぐらいメス射止めたんかな。たった一匹、それでもおまえは大きな声で叫ぶんだな。

人間は、世界でたった一人取り残されても歌うんかな。たった一人になっても動物や虫や植物に、自分を伝えようとするんかな。

俺にはおまえがどうしたいのかわからんが、俺はここでおまえの最後の孤独、聴いてるぞ。

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